エラブの巫女ヨネさん5
ヨネさんは、島で「ゆた」と云われる祈祷師である。
祈祷、お祓いのほか、予言、占い、そして怪しげな医療行為もやっていた。
島にはおばさんの他にも、祈祷師は何人もいたらしいが、「うちのばあさんが一番凄いと、よーいわれますなぁ」とオジは云ってたが、お客というのか信者というのか、おばさんを頼って島中からよく人が来ていた。

おばさんの家の片隅に、ちいさな台があり、その上にりんごの空き箱が縦に置かれていた。箱の前面は花瓶に挿された榊の枝葉に覆われて、中に何があるのか分からなかったが、それが神棚で、祈祷はその前で執り行はれた。
おばさんへの頼みごとはさまざまだった。島を出てから消息のない息子の行方を尋ねる老婆から、無くなった大事な爪切りの在り場所を聞く人。屋根を直したいが、良い日は何日か?とか、庭の石を動かしたいが、その旨を石に伝えてほしい。また、山羊の機嫌がこの二三日よくないので、理由が知りたいなどなど、何でも有りである。要するに、自分で判断、決断できないこと、またはしたくない事ごとに、おばさんの指示を仰ぎにくるのだ。
島の日常生活には、神の代理人は不可欠な存在である。
どんな依頼であろうと、おばさんの祈祷はこんなふうに始まる。 「この家屋敷郭内を、お貸し賜りますところーの、ウルヌルフーヌル、フーヌルヌウの神に願いあげたてまつ。うじ虫這い虫目にかけず、生霊死霊めにかけず、、、」そのあとは島の言葉でしゃべりっまくるが、私には一言も解らなかった。
わたしは好奇心にかられ、おばさんの祈祷の場に度々同席したが、時々おばさんは入神状態になって、ひっくり返ったり、のけぞって暴れ、奇声を張り上げたりしながら、その合間に、神のお告げをしゃべっていた。
依頼者は「イェ、イェー」と、畏敬の声をあげ、おでこを床にこすりつけてから、いくばくかの謝礼を神棚に置くのだ。
その場に私がいると、たいていの来訪者は未知の私をみて、これは何者かとおばさんに聞く、おばさんは、厳かに「この兄さんはやぁ、アタイと神のきょうだい!」と答える。そのとき客からは、例外なく気のない返事がかえってくる。すると、おばさんの威厳に満ちた大声がひびく。
「神の兄弟というものはアルド!」客は恐れ入って「イェ、イェー!」とひれ伏す。 わたしは、おばさんの神の兄弟として人に知られ、オジもそのように、私を遇してくれた。
続く









