レオノーラ キャリントンの絵
タゴベールの気晴らし 75x86.7cm テンぺラ画
ベット ルーム 63.5x86.5cm アクリル画
もう10年ほど前のことですが、東京駅のステーション・ギャラリーでキャリントンの展覧会が開かれたことがあります。それを観にいったときのことです。
たまたまわたしと前後しながら、会場をめぐっていた初老の夫婦らしきカップルがいました。変な人たちでした。だんなの方は絵の前に立つと、小声で長々としゃべり始めるのです。奥さんの方は、まるで絵なんか見ようともしないで、床を見つめたり、天井を見上げたりしているのです。わたしはそんな不謹慎な絵の見方に腹が立ち、絵のまえをはなれて、会場におかれた椅子に腰を下ろしました。
そして遠くから二人を見たとき、衝撃で体が硬くなり、熱いものがこみ上げてきました。
おくさんは盲目だったのです。それから私は密かに、最後まで二人のあとをついて歩きました。だんなの語りが、おくさんの中でどんなイメージを展開させているのか、それを知るすべはありませんが、二人が創り出していた濃密な世界は、キャリントンの世界そのものでした。彼女の内に繰り広げられた作品は、私が目で見たキャリントンよりも、はるかに深い魂のひびきがこめられていたにちがいないのです。
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