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エラブの巫女ヨネさん6

土曜日, 10月 10th, 2009

 ヨネさんは字の読み書きができなかったが、古い雑誌を一冊もっていた。
 表紙も裏表紙もなく、紙は変色するほど古く、一冊の雑誌というより、それは千切られた紙くずの束にひとしく、いつか何処かで拾ったものかも知れなかった。
 誌名も発行年もわからなかったが、婦人雑誌か、家庭雑誌のようだった。

 夜、ヨネさんは自分の身の上話に飽きると、その雑誌の残骸を、大事そうに取り出してきて私に読ませた。自分でページを開き、読んでほしいところを幼児のように指さすのだ。
 ヨネさんの好みは、広告である。大きな活字や、派手な画き文字、きれいな飾り枠、そして絵や写真がそえられた大げさな広告が好きだった。
 その中に散らばる大小の活字の列を指差す、私がそれを読むと、おばさんには無意味な記号の羅列が、言葉になり意味をもつのだ。
 それがどんな文言であろうがヨネさんはこを云う「いぇー感心。かわいそう。神のひきゃあわせ!ありがたいこと」オジもおばさん同様読み書き不自由なのかは解らないが、ヨネさんに合わせてひたすら感心していた。
 彼女の指は広告のなかを無作為に移動するので、文の内容は細切れになり脈絡を失うが、そんなことは問題ではない。遊園地の遊具の間を歩き回る幼児のように、おばさんの指は活字の上を遊覧する。
 それはまさに、彼女の遊園地であった。いや、ヨネさんだけではない、オジも私も、ヨネさんの指に従い、三人で薄暗い電灯のもと、夢幻の遊園地をさまよい歩いたのだ。
 

庭のヤギ小屋とバナナの樹

庭のヤギ小屋とバナナの樹


 そんな或る時「オォーでんわじゃ、、、」と、ヨネさんの指がきゅうに止まり、全身が固まった。家に電話などない、海からの荒い風が庭のバナナの葉をはためかせ、巨大な夜鳥の羽ばたきのような音が、漆黒の外の闇に鳴り響くだけである。
 やがて我に返ったヨネさんは「オジっ!アタイはあした出かけるっち、用意しとけ。あしたの朝、黒島から人が迎えに来るど、イエェーかんしん、ふしぎなこと」

 翌朝、若い男が来た。ヨネさんはオジの用意した、緑色の古びた紋付の羽織を着て、帯にオモチャの短刀を差し、片手に日の丸の扇子持って現れ、迎えの男の原付バイクの荷台にまたがった。
 着物のすそは肌け、白足袋に高下駄をはいた、枯れ木のようなおばさんの足は、おもいっきり八の字に開き、高笑いしながら走り去っていった。
 「いえーかんしん。不思議なこと」